アーセナルで異彩を放つマテオ・ゲンドゥージの魅力と数的優位作成講座

戦術分析

チェルシーの開幕前の戦術浸透度を取り上げた記事【サッリ・チェルシー】軌跡の出発点。開幕前の現状課題の分析でサンプルのひとつとして取り上げたPSMチェルシーvsアーセナル。この試合で一際異彩を放った期待の若手・ゲンドゥージと、彼を軸にしたアーセナルの攻撃があまりに印象的だったので、期待を込めて取り上げます。

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マテオ・ゲンドゥージ

ゲンドゥージは1999年生まれのフランス人。U20フランス代表にも選出されているCHだ。昨季フランスリーグドゥのロリアンで18試合を戦い、今夏約720万ポンドの移籍金でアーセナルに加入した。

彼のストロングポイントは精度の高いロングボールだ。遠いサイドにいる味方にピタリとつけるサイドチェンジはアーセナルの攻撃の強力なオプションのひとつとなるだろう。ただ、世界にはロングボールを得意とする選手が数多くいる。そんな中で彼特有であり最大の特徴が、敵の守備ブロックを破壊するポジショニングとビルドアップ手法である。

以下の2つの動画をベースに、彼の特徴について解説する。

アーセナルのCHゲンドゥージ
精度の高いロングボールにボディアングルの調整の上手さ。そして何より敵のプレッシングを回避するポジショニングと移動。
→ゾーンの隙間への侵入、リンク
→ゾーンの横断
→アタカールエルバロン
→DFラインへの落ち方

これで19歳。めちゃ良い選手!

vsチェルシー

vsアトレティコ・マドリード

ゲンドゥージ
・ゾーンの継ぎ目に位置する、運ぶ。FW-MFライン、2トップ脇、2トップの間を的確に狙い撃ち
・巧みなボールコントロールで敵を背負って無力化
・精度の高いロングボール

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大きな3vs2ではなく小さな2vs1を創り出す

中盤の選手がCBの間に落ちて3枚でビルドアップを行う。この方法は今や非常にベーシックなものになってきている。2トップに対して数的優位の状態でボールを運ぶ工夫である。ゲンドゥージもゲームの流れを汲んでこの動きを行う。但し彼の場合は2枚のCBの中間ではなく、どちらか一方に寄るように落ちる。つまり3枚(2CB+ゲンドゥージ)vs2枚(2トップ)ではなく、2枚(CB+ゲンドゥージ)vs1枚(2トップの一角)の状態を創り出す。

こうすることでパスラインを確保、数的優位を確実なものにする。当然のことだが規模が小さくなるにつれ1枚の数的差異が持つ意味は大きくなっていく(1万人vs9,999人と3人vs2人では1枚差の持つ価値が違う)。この最小単位の数的優位作り(オーバーロード)が彼の特徴だ。2トップのもう一方が数的不利の解消に動けば逆CBがガラ空きとなる。食い止めるには連動を行うしかないが、少しでも連動にズレが生じれば右脚から高精度のロングボールがその傷口に向かって放たれる。

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SHとFWの間のスペース

ゲンドゥージはサイドにおいても上記同様に2枚(SB+ゲンドゥージ)vs1枚(SH)の状態を作る。このSHとFWの間のスペースは4-4-2の泣き所でもある。CHが出るにも、FWが引くにも中途半端な高さで、判断に迷う厄介なエリアだ。

上の動画でのアトレティコはPSMということでエンジン全開とはいかず、FWが引く方を選択。といっても毎回外までケアをするのは難しく、遅れてチェイスをかける形だ。このわずかな遅れを利用してゲンドゥージは、FWの前にボールをコントロールし、チェイスを背中に受けるような形で無力化を図っているのが動画から読み取れる。そして内側、FWと中盤のライン間にボールを運ぶ。横に運ぶことでFWがチェイスを続行するのか、CHが出るか、反対のCHが出るか、という選択を迫る。誰がアプローチをかけるにしても、ゾーンの継ぎ目をなぞられているため、スペースが生まれる。寄せに出ずに中央を固めれば外が空く。ゲンドゥージの高精度ロングボールを下支えしているのは、彼自身によるスペース&パスコースメイクに他ならないのだ。

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ボディアングルの調整

上の項にも絡むが、ゲンドゥージはボディアングルの調整が非常に上手い。常に前を向いた状態を作り出す。局所的な数的優位を作っても、前を向いて脅威を与えなければ意味がない。彼は、優位を作ってから運ぶドリブル(もしくはパス)に移行するまでが非常に速い。あらかじめ身体の向きを作って準備をしている。また、身体の向きができあがっていない状態からのターンもスムーズである。185cmと大柄だが、余計な動作なくターンを決める。

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チャンネルの攻略

高精度のロングボールを放つゲンドゥージが上記のように数的優位を作り、前を向き、前進させる。彼を起点に、特にチェルシー戦で見られた攻撃がサイドチェンジ+インナーラップによるチャンネル攻撃だ。以前、「アオアシ」から学ぶ、”司令塔型サイドバック”の可能性と”チャンネル”の攻略においてサイドチェンジ+インナーラップの相乗効果は解説したが、アーセナルでは前を向けるロングボールの出し手とスピードあるSBによってチャンネル攻撃が実現されていた。

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おわりに

ロングボールはゲンドゥージの特徴のひとつだ。しかし彼特有であり最大の特徴はそのロングボールを活かすためのポジショニングやビルドアップ手法、前を向く能力である。

当然のことだが、これらの数的優位作りはCBに近寄る、SBに近寄る際の移動が不可欠だ。その移動時間が与えられない場合、つまりはボールを失った後に即プレスをかけてくる相手に対してはこれらの強みを活かすことが難しい。これが彼の課題だ。高速トランジションで奪いに来る敵に対してどう振る舞うのかは今後見守っていきたい。

課題はあるが、ティーンとは思えない非常に優秀なプレイヤーだ。正しく成長を遂げれば移籍金720万ポンドの数倍もの市場価値を持つ選手になるだろう。

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コメント

  1. […] 数的優位の考え方としては、先日挙げたマテオ・ゲンドゥージの考え方と近いものがある。近距離でボールを扱うため、周囲の選手が近い距離、狭いスペースでも安心してボールを当ててくれないとアンカーとしては厳しい。 […]

  2. […] ゾーンの隙間を縫う動きやスペースの感覚にも長けており、イニエスタやシャビのようなゾーン破壊の名手となる可能性を秘めている。 […]

  3. […] 最小単位の数的優位確立の重要性はゲンドゥージの記事にて紹介している。オーバーロードをかける上で最小単位の数的優位を築くことは非常に重要だ。2vs1を築くことで前を向きやすくなる。さらに安定したボール保持を実現することで、敵を数的不利の状態に長くさらすことができる。これを嫌がれば敵のブロック全体が片側サイドに寄ってきて、逆サイドのバックドアを仕掛けやすくなる。 トロイが築く最少単位の数的優位は大きく分けて2つ。1つはWBと組むもの。もう1つがトップ下(またはトップ)と組むものだ。 […]

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  5. […] ブラントがハーフスペースを下り、最小単位の数的優位を作る。CHが出てくればライン間が空き余白に前進するヴェンデルからパスを送り込み、出てこなければ前を向く。パターン1同様、逆IHのアランギスが同サイドに流れてくる。 […]

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