前回の【5バックの守り方】ガスペリーニ・アタランタの5-2-1-2守備戦術の分析①に引き続き、アタランタならではの守備の仕組みとその根底にあるもの、ウィークポイント等をご紹介。
前編を見ないと理解できないはずなので是非ご覧ください。
CHの負担軽減のために
前編に記載の通り、CHには前線のプレッシングへの連動、後方のカバーリングといったタスクが課せられている。さらに加えて、状況次第ではWB手前のスペースへとスライドしてボールホルダーにアプローチするという仕事もこなす必要がある。攻撃面でのタスクがそれほど多く無いとはいえ、当然毎回これだけのタスクを消化するのは難しい。
薄くなったCH周りにDFラインの中央3枚が前進してケアするのは当然のごとく。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
— . (@souko_sa) May 3, 2020
そのため、CHのスライドが間に合わない範囲はHVとCBが前進して寄せる。これは5バックを採用するどのチームも行っているだろう。前進した選手が空けたスペースは残りの最終4枚で埋めるか、CHが落ちて埋める。
特徴的なのはWBが敵WGに釘づけにされた状態で、サイドの浅い位置に渡った時の対応だ。
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スライドが間に合わない、ピン留めを喰らった時はCHも対応に。面白いのが、ピン留めされたWBに代わって、HVがSBケアに向かう1シーン目。
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WBがピン留めされた際、サイド浅い位置の敵(SB、CH)に寄せるHV。
WBが前進して敵SBにプレスをかけるのがベターだが、WGに釘付けにされており、受渡しの調整が難しい。CHもスライドが間に合わない。そんな時にアタランタはHVがSBにアプローチをかける。HVがアプローチをかけることで大外の敵WGが空くことはなくなる。HVの裏は泣き所だが、CBのジムシティが持ち前のカバーリング能力で蓋をする。
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CHはまっすぐ降りて、入れ替わりでDFラインに入る「省エネ」も可能だ。ミスの出やすい受渡しを省き、CHの負担を抑える上で非常に効果的な守備方法となっている。
味方を意識したスライド
アタランタの守備での連動性の根底にあるものは何か。それは味方の位置とスペースを意識したスライドだ。敵とボールの位置に応じてスライドを行うのは勿論だが、さらに味方の位置とスペースの有無を判断材料にしている。
敵とボールだけでなく味方とスペースを意識して寄せのタイミングをずらす。サイドチェンジ対応のお手本のようなWBカスターニュのプレー。
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例えばこのシーン。
サイドチェンジ+チャンネル攻撃は敵の守備組織を崩す黄金パターンである。ユベントスとしては左WBカスターニュがカンセロの対応に出てきた背後をベルナルデスキに突かせる、というのがベストであっただろう。しかし、ここでカスターニュはあえてカンセロへの寄せのタイミングを遅らせている。サイドチェンジのパスが横断し始めた時、カスターニュ以外の最終4枚は右方向を向いている。ここでカスターニュ1人が逆方向に走り出せば当然DFラインに穴を空けてしまい、守備組織を崩壊させてしまう。敵の位置だけでなく味方とスペースを意識できる彼は穴を空けないことを優先し、結果として遠い位置からのクロス、ゴール前のブロック構築、さらにはクロスのブロックまで成功させた。
サイドを限定しつつ、丁寧で連動したプレッシングと受渡し。
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次にこのシーン。
WBハテブールがボールホルダーに寄せる際、後方の味方に合図を送り、自身が見ていた選手のマークを丁寧に受け渡しているのが分かる。これに応じたCHのフロイラーがサイドに引っ張られると、続いて空いたスペースを埋めるためにトップ下のアレハンドロ・ゴメスが背後から忍び寄る。2人の選手を同時に見るポジショニングからの寄せで、中央を使わせずサイドに追いやる見事なプレッシングである。
どちらのシーンも、前の選手が後方の選手を意識した上で守備を行っているのが分かる。「周囲を見渡すことのできる後方の選手が指示を出せ!」というのはよく聞く言葉だが、それだけではアタランタの様な守備組織の構築は難しい。前の選手も首を振り、周囲の状況を確認し、味方とスペースも意識した的確な判断が求められているのだ。
ネガティブ・トランジション
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アタランタのロスト直後のプレッシングは必見。デローン&フロイラーのCHコンビがえげつない。
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アタランタの攻撃はFWが流れてのサイド攻撃が基本となる。
サイド深い位置で失った場合、基本的に近くの選手(主にFWとWB)からプレッシングを行う。その時も中央の利用を制限するためトップ下とCHが中央のスペースを封鎖する。プレッシングの先鋒となるWBとFWに続いてCH+HV、その背後をCBという形で、こちらも三重の網を構築する。
上の画像は前編で解説した「前提条件」と「サイドで奪う仕組み」であるが、これは守備への切り替えのタイミングでも同様に適用される。違いといったらプレス開始位置くらいである。また、ボールを失った瞬間にWBがボールより高い位置に居た場合、2つ目の網となるHVやCHが対応する。空いたところは5バックの残りの選手やCHがカバーする。
ウィークポイントと攻略法
アタランタの守備に対するユーベの攻撃
・泣き所は縦の入れ替わりが激しいHVの裏。
・ユーベが図ったのは、左から縦のポジションチェンジ、右からカットインを交えた侵攻。
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ウィークポイントは大きく2つ。ここではアタランタの5バックの他、一般的な5バックのウィークポイントとしてホッフェンハイムも取り上げる。
まずは前提条件の破壊だ。中央を使わせないという前提が破壊され、WBが釘付けにされてしまうと、CH周辺や大外から簡単に破られてしまう。外での数的不利に対応できず、もしくは対応しようとしてバランスを崩すケースも多い。前編にて解説したポイントである。特に危険なのはWGのカットイン。カットインに対してWBがどこまでついていくか、どのタイミングでHVに受け渡すか、といった問題が出てくる。ここのタイミングを誤れば裏に入られてしまったり、プレッシャーがかからずミドルシュートや、ドリブルアットからの逆サイドバックドアを許したりと、様々なリスクにさらされることとなる。
そしてもう1点がHVの裏だ。
1点目。ホッフェンの良さと523の難しさ。2トップ+IHの4人の受け手に対しマインツはWBの対峙+3バックで逆IHアミリを放置。アンカーも浮く形。斜めのパスを入れる事でこの浮いたアンカーのポランスキとIHアミリを活かした。マインツWBはホッフェンWB警戒し過ぎてた。
— . (@souko_sa) May 3, 2020
裏をカバーする仕組みと意識があるとはいえ、頻繁にDFラインの出入りが行われるアタランタの守備はエラーが発生しやすい環境であると言える。攻撃側としてはそれをいかに誘発し、侵入するための駒を用意するかという点がポイントになるだろう。
配役としては①WBを釘付けにする役、②CBを釘付けにする役、③HVを釣り出す役、④HV裏に侵入する役が必要だ。これらの準備が整えば攻略可能である。また、4人4役を揃えなくとも一人二役をこなせば少ない人数でも攻略可能だ。
例えばマンチェスター・シティなら、WGのレロイ・サネが①WBの釘付け役と④HV裏への侵入役をこなす。バルセロナならCFのスアレスが②CB釘づけと④HV裏侵入を兼任。シティのデブルイネやダビド・シルバ、PSGのドラクスラー、バイエルンのレオン・ゴレツカ等は③HVの釣り出し役から④HV裏侵入までこなす。
つまり、①or②or③ + ④、敵の位置取りを強制する3役のうちの誰かがHV裏侵入を兼務すれば、3人での攻略が十分に可能ということである。
これは結局、4バック化させて擬似的チャンネルを広げて突くという攻略法だ。いかにチャンネルの攻略が重要かという話にもつながる部分である。5バックの距離間で釘づけすれば、4バックよりもチャンネルが広くなり、攻略しやすいだろう。アタランタの場合綿密な受渡しを行いつつ、スペースを潰すような意識、さらには味方の位置を意識したスライドを行うため、なかなか穴が空かない。
おわりに
ガスペリーニ・アタランタの5-2-1-2は「前提条件」を掲げる事で5バックの弱点を晒すことなく自分たちの土俵に持ち込めるという点において、非常に優れた守備戦術であると言える。
弱点を隠す→自分たちのエリアに誘導→三重の網で仕留めるという流れのパッケージ化。その根底にある味方とスペースをも意識した判断能力。この2つが、選手間の意思の疎通を容易にし、発生する穴を次々と埋める柔軟な守備戦術を形作っている。
5バックを採用するチームの手本であり、スペースを埋める守備という意味ではどのチームも手本にすべきチームである。
選手個人で見ても、WBのカスターニュとハデブール、CHのデローン等はビッククラブに引き抜かれてもおかしくないクオリティを持つ。その他、イリチッチやアレハンドロ・ゴメス等、年齢的に引き抜かれることはないであろう実力者がガッチリとチームに嵌っている。
2回にわたり守備構造に注目して紹介した。次回はここまで(23節終了時点)でユベントスをも凌ぐセリエA最高得点数を稼いでいるアタランタの攻撃面にフォーカスする。
コメント
[…] 5バックの攻略法として以前取り上げたアタランタの記事ではWBを釘付けにする方法を紹介しました。清水は逆にWBを大きく釣り出して空いた背後のスペースを突くというアプローチを見せてくれました。これは、山雅の5-2-3の特徴もひっくるめての攻略法となります。 […]