レアル・マドリードからクリスティアーノ・ロナウドを獲得し、セリエAで独走状態を続けるユベントス。スーパースターの加入はチームに勇気を与える反面、全体バランスの整備という困難が付き纏う。ロナウドしかりメッシしかり、特別な仕事をこなせる選手には特別なタスクが与えられる(もしくは免除される)ものだ。
しかし、名将・アッレグリは半年という短い期間でこの困難なミッションの最適解を見出した。今回はそんなロナウドを組み込んだアッレグリ・ユベントスの守備戦術について。
ロナウドを守備に組み込め!
ユベントスはシーズンの半分、19試合終了時点で11失点。数字が示す通り、堅固な守備が強みだ。この守備組織を構築したアッレグリは、ロナウド(以下CR7)をも守備に組み込んでいる。勿論、特別な仕事をこなせる彼を他の選手ほど守備に走らせることはしない。ただし、イタリアでのCR7は最低限のカバーシャドウはかける姿勢を見せている。
足りない部分は背後に構えるIHのマテュイディがカバーする。
マテュイディは派手さこそないが、運動量と守備能力において世界トップクラスの実力の持ち主だ。CR7を背後から支え、攻撃においてもポイントとなる彼は、間違いなく今季のユベントスのキーマンである。
さらに前線でコンビを組むマンジュキッチも、CR7と入れ替わって左WGの位置に入り、守備面のカバーをこなすことができる。
CR7を組み込み、マンジュキッチとマテュイディを中心に足りない部分を補い機能するユベントスの守備の特徴は大きく2つ。1つは「二刀流のプレッシング戦術」、もう1つは敵を囲い込むネガティブ・トランジションにある。
サッリ・ナポリ風プレッシング
サッリ・ナポリのプレッシングはWGのカバーシャドウから入ることで片側のサイドを確実に潰し、進行方向を確定させ、逆サイドで仕留めるというプレッシングであった。
片方のサイドからカバーシャドウをかけて反対サイドで仕留めるサッリ・ナポリ風プレッシング byアッレグリ・ユーベ
このプレッシングは今季のユベントスでも採用されている。その多くはディバラ、ベンタンクール、カンセロ等の右サイドで始まりCR7、マテュイディの左サイドで仕留める形となっている。CR7からプレッシングを開始することは少なく、彼の役割としては最低限のカバーシャドウをかけカウンターの脅威をちらつかせることによる正常なビルドアップの阻害。抜群の奪取力と運動量を誇るマテュイディが終着点であることを考えても非常に理にかなったプレッシングである。
リバプール風プレッシング
リバプールの守備はWGがSBを、CFがアンカーをカバーシャドウで切り、間のIHに通してきたところを中盤の3枚で狙い撃つ形であった。ユベントスはこれに近いプレッシングを採用している。
ホルダーへの寄せは片側のサイドを消しながら。空いている方のサイドは2人目が見て、その間を通すパスを3人目が狙い撃つ。
ホルダーへのプレスマンが片側のサイドを切りつつ寄せ、もう一方のサイドの選択肢を2人目が消す。その間を通すパスを3人目が狙う。リバポ風プレッシング。
大きく違う部分はアンカーの見方だ。リバプールの場合CFのフィルミノがアンカーをカバーシャドウで消しながらホルダーに寄せるため、CB間のパス交換には対応できない。
対してユベントスはアンカーにアンカー(もしくはIH)をぶつける。ピャニッチ(もしくはマテュイディ)だ。アンカーをこのようにケアする事により変化するのがCFの寄せ方だ。ユベントスのCFはCB間を切るように寄せるため、早いプレッシングではないのにDFに時間を与えない。
敵DFと睨み合いの時間が続くリバプールとは対照的な部分である。これは前述のナポリ風プレッシングをセットで行うことにより可能となる部分でもある。
ユーベのプレッシング
4-4-2ベース、プレッシングの過程で
マンジュキッチが左SH
ディバラが右FW→右SH
ロナウドが左FW→CF、
ベンタンクール・ピャニッチ・マテュイディの内1人がアンカーに付いて前進し、4-2-3-1に変化する興味深い形。
興味深いのは4-4-2から4-2-3-1への変化だ。単に2トップが縦関係になるのではなく、一角を担うディバラが右に旋回、中盤3センターの内一人がアンカーを見ることの出来る位置まで上がって4-2-3-1を作る。
これは、ナポリ風プレッシングの起点となるディバラが右に残る形だ。彼が右に残れば同サイドにカバーシャドウがかかると共に、GKを使われたとしても数的不利にならない。
当然、アンカーを3センターの誰かが見ることが前提の守備だ。でないとアンカー経由で回避されてしまう。誰が出るかは状況次第だが、その後絞って2CHを形成するところまでチームに浸透している。余計な受渡しを控えると共に、効率の良いプレッシングが可能となっている。3センターの柔軟性が土台となっている守備構造である。
例えばこれでディバラがアンカーにつくと、左CBがフリーになる。ディバラがGKへの寄せまで行えば図と同様のカバーシャドウがかかるが、彼1人への負担だけが大きくなりバランスが良くない。2トップのうちカバーシャドウでの追い込みをかけなかった側のFW(図の場合マンジュキッチ)がGKへのプレッシングを行う方法は4-4-2の教科書、アトレティコ・マドリードもしばしば用いる手法である。
ネガティブ・トランジション
特徴的なネガトラ。ホルダーへのプレスは片側を切りつつ。2人目が反対側の選手を切り、間を通すパスを3人目が狙う。狙いが絞れるからボヌッチとキエッリーニは果敢に前進できる。選択肢を除かれたホルダーへの寄せは急ぐ必要が無い。
ボールを失った直後の守備はリバプール風プレッシングでのボール奪還が試みられる。また、通常のチームのネガトラとは優先順位が異なる。
通常はファーストプレスでボールを「奪いに行く」素早いプレッシング、後続には連動が求められるが、ユベントスのプレッシングは「選択肢を潰すための囲い込み」が優先される。いきなり奪いに行くのではなく、選択肢を絞ってから奪いに行く。動画を見ても、寄せの単純なスピードに関してはそれほど速くない。
方法としては上述の通り、リバプール風プレッシングそのままだ。ボールを奪われたらファーストプレスマンが片側のサイドを切りながら寄せる準備。逆側のサイドを切る選手には「判断」のスピードと「位置に付く」スピードが求められる。
ここまでが揃ってからホルダーへのプレッシングを強める。その間を通すパスはカウンター対策で残っているIHやアンカーが待ち構えていることが前提となっているから、この選手の連動待ちは無い。
選択肢を絞るため、判断スピードと予測に長けたCBボヌッチとキエッリーニは積極的にパスカットのための前進を行うことができる。
セカンドボール対応
クロスのセカンドボールはアンカーが前に出て拾う。IHはその両脇で補佐。アレックス・サンドロに限らず、ユーベのSBはIHの位置のカバーができる。
CR7、マンジュキッチを擁するユベントスはクロスボールの利用頻度が高い。となるとやはりポイントとなるのはセカンドボールの回収だ。どんなにクロスボールが武器だと言ってもその成功数は失敗数を大きく下回るはずだ。つまり、失敗した際のセカンドボール回収までをパッケージ化して落とし込んだチームの方が圧倒的にクロスボール戦術の完成度が高いと言える。
ユベントスの場合、クロスボールが落ちてくるペナルティ・アーク付近にアンカーのピャニッチが前進する。
以前、カウンターを取り上げて記事で、ベルギー代表はクロスが上がってくるサイドのハーフスペースにクリアボールを落とすという話をした。
ユベントスの場合、世界でもトップクラスの空中戦の強さを誇るマンジュキッチとCR7がクロスのターゲット。ニアを狙うクロスよりも単純な高さ勝負になる中央へのクロス、もしくはSBと競り合いを行うファーサイドへのクロスが多い。
高さ勝負を促す緩いボールは、弾き返すのにパワーが必要だ。それが中央やファーに上がってくるのであれば、クリアボールの落下地点がニアよりもアーク付近が多くなるのは必然だ。ましてや競り勝つ事で精いっぱいとなればなおさらであるため、そこを虎視眈々と狙い撃つのである。
基本的にはピャニッチが前進、その脇を片方のIH、そしてSBで埋めるという布陣になる。圧倒的な個の力を持つ2選手がターゲットのため、ゴール前に余計な枚数を割く必要はなく、代わりにセカンド回収に割くことができるのだ。
おわりに
状況に応じた柔軟性と判断力を備えたピャニッチとベンタンクール、多少の粗を塗りつぶす運動量と奪取力を備えたマテュイディ。この中盤3センターを中心としたユベントスの守備組織は、非常に特徴的でかつ強力だ。
ロナウドを組み込んだ状態でここまでの守備組織を構築するなど、並の監督では到底まねできない芸当だ。アッレグリの手腕が恐ろしい。成績にばかりフォーカスされるが、中身の部分がなぜ全く話題にならないのか、今シーズン最大級の謎である。
選手も監督もプレミアに集中してしまう以上、プレミアへの注目度が高まるのは当然の流れだが、こういった素晴らしいチームが他リーグにいることも忘れてはならない。アンテナを張り、やはり他人に頼らず自分の眼で観ようと痛感させてくれたユベントスとアッレグリに感謝したい。
次回はアッレグリ・ユベントスの攻撃戦術について取り上げる。
コメント
[…] 前記事ではロナウドを組み込んだアッレグリ・ユベントスの守備戦術の紹介をした。 今回はロナウドとマンジュキッチを中心とした攻撃、変則型4-3-1-2にフォーカスしていく。 […]
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